ヴワディスワフ・スタレーヴィチ (Wladyslaw Starewicz)

(1882-1965)  「カメラマンの復讐」(1912)は昆虫モデルを使った、虫たちの痴話げんかの話。当時、模型の虫があまりにリアルだったので虫たちを「調教」したという記事も出たらしい。私も初めてこれを見たとき、本物か?と一瞬思ってしまいました。まあ、荒い白黒フィルムだというのもあるのですが。でも、この時代にここまでのコマ撮り技術は、凄いです。他にイソップ寓話の「アリとキリギリス」(1913)など。


ミハイル・ツェハノフスキー (Mikhajl Tsekhanovskij)

(1889~1965)  ロシア民話による「蛙になったお姫様」(1954)は、蛙にされたお姫様を救おうと魔王の城を目指す王子と、それに協力する動物たちのファンタジー溢れる長編セルアニメーション作品。まるで舞台で芝居を見ているかのようなきめ細かい演技です。
またアンデルセン童話を元にした「野の白鳥」(1962)は、グラフィカルな背景処理が目を引きます。しかも引きの画が多く、まるで絵巻物を見ているかのような気分になります。映画の演出の仕方という視点でも、なかなか面白い作品です。
その他、ロシアの児童文学作家サムイル・マルシャークの原作をアニメーション化した、「おろかな子ねずみ」(1940)という短編作品もあります。


アレクサンドル・プトゥシコ (Aleksandr Ptushko)

(1900~1973)  「習慣のとりこ」(1932)は、怠惰な生活を送る男の生活を描いたトーキーの短編人形アニメーション。
「新ガリヴァー」(1935)は、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』の中の「リリパット国渡航記」を、共産主義の立場で翻訳しなおした実写と人形を組み合わせて作られた77分の白黒長編映画。主人公は、共産少年団員となっています。人形の数も多く、合成の技術もなかなかなものだと思います。
戦後は、「石の花」(1946)、 「虹の世界のサトコ」(1953)、 「豪勇イリア 巨竜と魔王征服」(1956)といったカラーの長編特撮映画を撮っています。


イワン・イワノフ=ワノ (Ivan Ivanov-Vano)

(1900-1987)「イワンのこうま(せむしの仔馬[改])」(1947)は、ロシアのおとぎ話を題材にした長編セルアニメーション。イワノフ=ワノは、制作総指揮として関わっています。火の鳥が出てきます。作者はロシアの詩人ピョートル・パーヴロウィチ・エルショーフで、日本でも絵本、童話として出版されています。
また、切り紙アニメーションの「ケルジェネツの戦い」(1971)は、ノルシュテインと共同監督した作品。
他に、ロシアの児童文学作家であるサムイル・マルシャーク原作の「森は生きている」(1956)など。


レフ・アタマーノフ (Lev Atamanov)

(1905~1981)  アンデルセンの童話が原作の「雪の女王」(1957)は、雪の女王に心を凍らされた少年を助けるため、様々な困難を乗り越えて助けに行く少女の物語りの長編セルアニメーション。ディズニー的な動きではなく、抑えた感じの繊細な動きです。
他に、競争社会を皮肉った「サイクリスト」(1968)、 美しいバレリーナの踊りに翻弄される船員たちのコメディ「船上のバレリーナ」(1969)といった、短編作品もあります。


フョードル・ヒートルーク (Fedor Khitruk)

(1917~ )  グラフィカルで、風刺のきいたユーモアのある作品を多く作られています。 悪戦苦闘しながら映画を作る過程を描いた「フィルム、フィルム、フィルム!」(1968)は、コミカルな楽しい代表作。検閲やプロデューサー達からあれこれ注文をつけられて脚本が変わっていくさまや、言う通りに演技してくれない子役など、気の毒だなーと思いつつ、笑ってしまいます。ようやく公開にこぎつけ、ドキドキしながら客の反応を伺う監督達のシーンは、こちらも緊張してしまいますね。
その他、集合住宅の騒音でノイローゼになってしまった男の話「ある犯罪の物語」(1962)「にぎやかな無人島」(1973)など。


ロマン・カチャーノフ (Roman Kachanov)

(1921~1993)  ロシアでは誰もが知っているといわれる謎の動物が主人公の人気シリーズ「チェブラーシカ」(第一話・1969)を監督。
「ミトン(手袋)」(1967)は、犬が欲しい女の子が手袋を犬に見立てて遊んでいると、その手袋がかわいい子犬に変身!子供の頃そんな空想してたなぁ、と、懐かしさも覚える作品。
その他に「ママ」(1972) 、「レター(手紙)」(1970)など、子供から大人まで楽しめる、繊細な人形アニメーションを作られています。


ミハイル・カメネツキー (Mikhail Kamenetsky)

(1924~2006)  「オオカミと子牛」(1984)は、食べようと思って盗んできた仔牛に情が移ってしまったオオカミの話。仔牛を狙う輩から守ろうと必死なオオカミが健気です。


ワジム・クルチェフスキー (Vadim Kurchevsky)

(1928~1997)  「ドン・キホーテ」(1987)は、セットも衣装も豪華で凝った作りの人形アニメーションです。お金かかってそうです。多くの人物が出てきてそれらに対する動きもとても丁寧で、完成度は高いんじゃないかと思います。
他に「愛しの青いワニ」(1966)など。


イデヤ・ガラーニヤ (Ideya Garanina)

(1937~2010)  人形アニメーションの「ツルの恩返し」(1977)は、日本の昔話をベースにした作品。細かい部分がビミョーにズレてるところが、日本人にしか分からない"味"になってます。その"味"抜きでも、舞台の作りや演出もシンプルで綺麗で、よくできている作品だと思います。たぶん、川本喜八郎の作品を見て研究したんじゃないかな?


アナトリー・ペトロフ (Anatoli Petrov)

(1937~ )  「射撃場」(1977)は、人間の"恐怖の衝動"に反応して自動的に攻撃してくるというコンピューターを搭載した戦車を作った博士と軍人たちの話。人の本性を考えさせられ、また体制批判も見え隠れし、なかなか奥が深いです。マットでちょっとリアル系の絵も効いています。
「歌の先生」(1968)は、歌の下手なカバに歌を教えていた先生が、カバにのみこまれてしまう。そしてそのカバの歌が上手くなる、、、という、シュールな話。


ウラジミール・タラソフ (Vladimir Tarasov)

(1939~ )  「コンタクト」(1978)は、宇宙人と遭遇した男が逃げまとうコミカルな話。しかし、最後は「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を2人で口ずさみながら仲良くなってしまう、、、 もう、なにがなんだか、、、 ある意味、凄い作品。テーマを探すとすれば、邪念は邪念を呼び、愛は愛を呼ぶ、ってことでしょうか? 勝手な想像ですが、絵や雰囲気からいって、おそらくビートルズのPV「イエローサブマリン」(1968):ジョージ・ダニング監督 に触発されてる感じがします。


エデュアールド・ナザーロフ (Eduard Nazarov)

(1941~ )  「アリの冒険」(1983) は、仲間とはぐれたアリが巣に戻るまでの行程を描いた2D作品。いろんな可愛らしい虫たちが出てきます。効果音のみで音楽を使用していないので、ほのぼのと静かな空間が全編に漂っています。


ユーリ・ノルシュテイン (Yuriy Borisovich Norshteyn)

(1941~ )  切り紙アニメーション。主にセルに絵を描いて切り抜いたものをつなげたり重ねたりして動かしています。
現在制作中の「外套」は、出来ているところまで公開されています。この作品の主人公が机に座り字を描こうと手を伸ばすシーンがあるのですが、そこを初めて観たとき、ゾクッと背筋に寒気が走りました。彼の性格、これまでの人生、彼にとって「字を書く」行為がどういうことなのか。何気ないその動きの中に全てが顕れている気がしたのです。素材や手法による制約なども考慮に入れた中でのアニメーションの"自由"さ、そしてその中で生み出される"動きの創造"。アニメーションという表現手法の可能性に気付かされました。 
その他に、動物キャラ達が活き活き描かれている「キツネとウサギ」(1973)
お互い気になっているのに素直になれない男女の機微を描いた「アオサギとツル」(1974)
幻想的な森のシーンが印象的な「霧のなかのハリネズミ」(1975)
彼の経験や想い出から紡ぎだされた映像詩「話の話」(1979) など全作必見。


アレクサンドル・マザーエフ (Aleksandr Mazaev)

(1949~ )  「山びこさん(エコー)」(1990)は、擬人化された山びこのお話。鉄砲や飛行機の音を"山びこ"しなければならない、つまり、飛行機のうるさい音を、言いたくもないのに山びことして言い返さなければならない、山びこの"性(さか)"の視点が、おもしろいです。


アレクサンドル・ペトロフ (Alexander Petrov)

(1957~ )  ガラスの上に油絵で描いて撮影するアニメーションです。主に指を使って描いているそうです。どこで止めても「絵」になる超絶技巧。
ヘミングウェイ原作の「老人と海」(1999)の釣りのシーンの迫力と美しさは、絶品。
思春期の少年の初恋を描いた「春のめざめ」(2006)
売られてしまった仔牛を思う母牛の思いを少年の目を通して描いた、初監督作品であり、初めてのガラス絵技法を使った『雌牛』(1989)
ドストエフスキー原作の『おかしな男の夢』(1992)
過去の過ちを懺悔し続ける老人の僧侶と、その弟子の若者、そして愛する男の心変わりにより入水自殺した乙女が生まれ変わった水の精、この三者の複雑な思いが絡み合う、愛と罰、そして許しの話、『水の精-マーメイド』(1996)。個人的には、この作品が一番好きです。


ニーナ・ショーリナ (Nina Shorina)

「夢」(1988) は、死の床の中で人生について振り返る男のモノローグで綴られていきます。時折BGMで流れる「生きることに疲れてしまったのね、、、」などと歌われる女性の歌(男が心の底で求めている母性の象徴?)は、男の孤独と絶望の中での死に、諦めと慰めを与えているかのようです。
「扉」(1986)は、アパートの入口のドアが開かなくなってしまった、というコメディタッチの作品。初めは開かないドアをみんなで必死に開けようとしていたのに、いざ開いて使えるようになったら、何故か誰もそのドアを通ろうとしない・・・。慣れ、欲望など、私たちがとっている無意識の行動について考えさせられる作品。全て人形アニメーションです。


コンスタンティン・ブロンジェット (Konstantin Bronzit)

(1965~ )  「Au bout du monde (At the ends of the Earth)」(1998)は、三角形の山の頂点に立っている、バランスが崩れるたびにシーソーのように左右に傾く一軒家の話。とても面白い作品です。見方によっては、何か深~い含蓄が込められているような、いないような、、、。BGMが無い代わりに、動きをはじめ、効果音やキャラクターの声の"間"が、絶妙なリズム感を生み出しています。本当によく練られてるな、と思います。
「Lavatory Lovestory」(2007)は、有料トイレの女性管理人の恋のお話。自分が目を離した隙に花が置かれている。一体誰が・・・?モノクロの(花だけ色付き)シンプルな線画で、短編映画のお手本のような、とても良く出来た脚本です。



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