アニメーションの技法



シネ・カリグラフ [または スクラッチング]

カメラで撮影をしないアニメーションです。あらかじめ焼いておいて黒くなったフィルムを直接カリカリ削って、絵を描きます。フィルムは色が層になって作られているのでいるので、引っ掻いた傷の深さによって色が変わります。ものすごく微妙ですが。1コマづつ描かなければならないし、間違えた線は消せないし、画もぶれまくるなど、偶発性に富んだ面白い画面になります。
この技法は、マクラーレンが得意としています。彼は、直接フィルムのサウンド・トラックにまで"音を描"いたりもしています。もちろん音楽的と言えるようなものではなく、『ブブブブ』『ビビビビ』といったノイズ音のようなものですが。
新しい作品ではウロ・ピッコフがこの技法で作品を作っています。


ダイレクトペインティング

カメラで撮影をしないアニメーションです。透明な"す抜け"のフィルムに直接絵の具などで画を描いていく方法。もちろん1コマ1コマに。これもマクラーレンが有名。日本でも70年代辺りに結構つくられているみたいです。


ピクシレーション (Pixillation)

実写をコマ撮りして画を作る技法。ノーマン・マクラレンが、面白く効果的にこの技法を使ってたくさん作品を作っています。彼の「隣人」は、その代表ともいえる作品。人がピョンと飛び上がってその頂点でシャッターを切り、また少し動いて同じことをする。すると、人が空中で浮いたまま進んでる画ができる、という感じ。


ピンスクリーン (pinscreen animations)

 数十万本ものピンを埋め込んだボードを使います。このピンの部分を押したり引っ込めたりして、そこにできる光と影を使って画面を作る技法。したがって、白黒の画になります。 爪楊枝をごっそり握って、押したり引いたりする感じをイメージしていただければわかりやすい? はっきりした輪郭線の無い、光と影のグラデーションが織りなす柔らかくも深みのある画面が特徴。
アレキサンドル・アレクセイエフが考案し、ジャック・ドリューアンが継承しています。


人形アニメーション

パペット・アニメーションとも呼ばれます。様々な素材で作られます。なんと、ガラス製の人形を使った作品もあります。チェコでは木製の人形アニメーションが多く作られています。その、トルンカなど昔のチェコのものの多くは口を動かさないしほとんど表情を変えないので、通常は壊れないかぎり一体の人形をそのまま撮影に使います。表情をほとんど変化させないことにより観客の想像力にゆだね、逆に表情が豊かに見える、ということもあります。作り手の構成、構図、ライティング、脚本などの映画作りとしての力が発揮されるのではないでしょうか。
日本では川本喜八郎村田朋泰などの作品があります。


パぺトゥーン (Puppetoon)

人形をアニメーションする際の手法のこと。ジョージ・パルが考案したもので、少しずつ形を変えた人形全体、あるいは部分を置き換えて動かしていく手法。この手法だと、木やプラスチックなどの堅い素材でも、自由に伸びたり縮んだりと変形しているように見せることが可能。例えば表情を変えるために首から上を丸々挿げ替えたり、口だけを入れ替えたりします。その場合、現在では、顔にできた継ぎ目をデジタルで消したりすることもあります。
「コラライン」の顔は、そのパーツを組み合わせると20万7336通りの表情がつけられるそうです。「ウォレスとグルミット」、「ナイトメアー・ビフォア―・クリスマス」「ニャッキ!」などがこの手法で作られています。


半立体アニメーション

立体の人形の後ろ半分が無く、前半分(カメラ側)だけの、レリーフのような感じの画になります。主にガラスの上にのせて動かします。ガラスの棚が数段あるセットをレイヤーのように使うと、画面に奥行きが出て立体物同士でも重なった表現ができます。この表現だと、立体物の持つ質感と平面媒体の自由さのいいとこを活かしたアニメーションができます。
ポヤルの「ぼくらとあそぼう」が、この技法の面白さを充分に発揮していると思います。「こまねこ]でも、この技法を使ったおまけ(?)アニメーションが見られます。


クレイアニメーション

粘土を主な素材として使ったもの。英語圏ではクレイメーション(Claymation)と呼ばれています。ニック・パークのいるアードマンでは、プラスティシーンという粘土を使っていて、リップシンクの為に口の部分のパーツをつけかえて撮影しています。イザベラ・プリュシンスカの作品など、よく使われている素材です。


粘土を使ったアニメーション

ガラスの上に粘土を薄くのばし、下から光を当てることによって、画を作る方法。光を通した鈍く光る粘土が印象的。知らなかったら粘土だなんで判らないでしょう。あえて例えるなら、曇りガラスでできたステンドグラスみたいな感じ?。イシュ・パテル「死後の世界」で使われています。山村浩二は彼に影響を受け、同技法で「水棲」を作っています。


ガラスに絵を描くアニメーション

ガラスに油絵などで絵を描き、少しずつ消したり描き加えたりしながら撮影していく技法。文字通り、油絵のような重厚な質感が表現できます。アレクサンドル・ペトロフウエンディ・ティルビーなどでみられます。


砂を使ったアニメーション

1つ目の方法として、敷き詰めた砂を直接引っ掻いたり型押ししたりして絵を作るもの。ミッセーリスタジオ「aeiou」は、型押しと引っかき線のシンプルなものですが、色の付いた砂を効果的に使った楽しい作品です。
2つ目の方法としては、ガラスの上に撒いた砂で直接キャラなどの形状を作り、下からライトを当てるという方法があります。こうすることによって、砂の厚みで絵の濃淡が決まります。 これは、キャロライン・リーフの「ザムザ氏の変身」などでみられます。輪郭のぼやけて流動的な絵が特徴。微妙な陰影が雰囲気を醸し出しています。


切り絵のアニメーション [または カットアウト・アニメーション]

紙やセルなどを切って使います。ユーリ・ノルシュテインの場合、セルに絵を描いて切り抜き、それに関節をつけてつないで手足を動かしたり、重ねたパーツを置き換えたりして動かしています。また平面に置いて動かすのではなく、紙に絵を描いてそれを切り抜いてセットにたて、ひとつひとつ置き換えて動かす方法もあります。この手法はコ・ホードマンダニエル・グリーブスの作品などで見られます。
その他に、アニータ・キリラギオニの作品など、多くの作品で使われています。
まあ、やり方にもよりますが、他の手法に比べて制作スピードを速められたり、制作費も押さえやすいやり方ではあるかと思います。 日本では、大藤信郎が千代紙を使って作ってますし(白黒フィルムなのでせっかくの千代紙の色が出てませんが)、主に戦前に活躍した村田安司もこの手法で作品を作っています。


影絵アニメーション

紙やセロファンなどを使って影絵をつくります。ロッテ・ライニガー大藤信郎の作品で見られます。ペイントやCGでは作り得ない人形に回り込んでくる光の感じが、なんとも綺麗で好きです。影絵芝居フェチの私には、たまりません。チャンスがあれば(滅多にないですが…)フィルムで見ることをお勧めします。藤城清治氏の作品やワヤン・クリ、ナン・ヤイなどに魅かれる人は、是非。


水墨画アニメーション

1957年に設立された中華人民共和国のアニメーション専門の国営スタジオ、『上海美術電影製片廠』(上海美術映画製作所)で制作されています。もともと漫画家で、前記スタジオ設立の立役者でもある特偉が有名。齊白石やその弟子の李可染といった、水墨画の大家の画を原画にしたりしているそうです。背景画はもちろんのこと、動画部分にも水墨技法が使われているのは、本当に驚きです。滲み、暈し、線の強弱など、通常コントロールの難しい技術が使われています。制作時間も通常のアニメーションより数倍かかるというのも、納得です。


フル・アニメーション

例えばフィルムの場合、現在は1秒間に24コマの静止画(コマ)を動かしています。その1コマ1コマに前のコマとは違う動きを付けて作られたものが、フル・アニメーションと呼ばれているものです。要するに1コマ撮りですね。でも、CGやシネカリグラフ以外のアニメーションで、全編1コマ撮りされている作品は滅多にありません。よく、ディズニーのセルアニメはフルアニメーションだという表現がされていますが、厳密にいうと、最初から最後まで1コマ撮りがされているわけではありません。


リミテッド・アニメーション

フル・アニメーションが1コマ撮りに対して、2コマ撮りや3コマ撮りされたものです。例えば人がしゃべっているカットで、顔全体ではなく口だけ動かす、目だけ動かすといった動かし方もよく使われます。「節約」の為に使われることが多い技法です。
アメリカのUPAでディズニーのアニメーションとはちがうアプローチをするために意識的に試みられています。したがって意図的に使えばグラフィカルな作品にマッチし、必要枚数全てに絵を描いてリアルさを追求するフル・アニメーションと違った効果が得られるのです。とくにグラフィカルな映像には効果があります。手塚治虫の短編は、これが成功している例の一つでもあると思います。
"ディズニーの表情豊かなフルアニメ"と"もっぱら節約のために作られた日本のリミテッドアニメ"と云う感じでよく比較がされていましたが(今も?)、どちらが良い悪いの問題ではないように思います。どっちにも長所短所がありますし。リミテッドだからダメという話をよく聞いたりしますが、それは、ちょっと、違うと思います。
まあ、アニメーションを作るのは金も時間もかかってたいへんだ、ということです。


抽象アニメーション

具体的な対象を描いていない映像ものもあるし、もう少し広義の意味で、ある程度具体的なものが描かれていてもストーリー性の希薄な作品も"抽象"作品として扱われていたりするようです。構成、リズム、メタモルフォーゼといった、対象の動きに身を任せる楽しみがあります。
日本では相原信洋 、水江未来 といった方などがいます。
ノーマン・マクラレン も多くの作品を作っています。彼の「水平線」、「垂直線」という作品は、文字通り縦線、横線のスライドの動きのみで作られていますが、見ていても心地良いリズム感があり、凄いなあと思います。


メタモルフォーゼ (Metamorphose)

ある画から別の画に徐々に変形させること。例えば人間からネコに徐々に形を変形させたり、目玉が飛び出したり、まさにアニメーションの醍醐味と言える技法でしょう。アニメーション作品には大なり小なりこの要素が入っているといえると思います。もの凄くたくさんの作品があるのですが、私的にこの手法が印象に残る作家として、ジャンルイジ・トッカフォンドジョルジュ・シュヴィツゲベルネデリコ・ドラギッチの「日記」といった方々がいます。
アニメーションの初期の頃からメタモルフォーゼは使われておりエミール・コールディズニー、そして、フライシャーの「ベティ・ブープ」などでも多用されています。これらの作品を見て研究していたであろう、大藤信郎のセル作品などでも見られます。


コンピューター・グラフィックス (Computer Graphics)

世界で初めて映画へのCGの応用として作られた作品は、1982年(昭和57年)「トロン」です。これはウォルト・ディズニー・ピクチャーズ配給の実写映画ですが、コンピューター内の仮想世界を表現するためにおよそ15分ほどCGが使われています。ワイヤーフレームでの表現や、いかにもCGCGした質感のつくりなのですが、この映像表現は当時かなりのインパクトを与えたそうで、この後CGプロダクションが次々作られていきました。
デイヴィッド・オライリーのCG作品を見たときその卓越したセンスに衝撃を受けましたが、それと同時に、そのある意味"チープ"な画面作りに懐かしさも感じました。あぁ、CG表現も一回りしたのだな、と。彼は1985年生まれです。
「トロン」後、CGは年々進化を遂げ、ピクサー制作のフル3CDG短編アニメーション作品である「ルクソーJr.」1986年、世界初フル3CDG長編アニメーション映画の「トイ・ストーリー」1995年に公開されます。実写映画では、映画史上初めて映像合成を全てデジタル処理で行ったジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター2」1991年、スティーヴン・スピルバーグの「ジュラシック・パーク」1993年に公開されています。

2001年に公開された坂口博信監督の「ファイナルファンタジー」は、リアルな作りこみを追求したフル3DCG長編映画としては世界初の作品。しかし顔の個々のパーツの動きはきちんとつけられていたのですが、表情筋の動きが非常に乏しかったので、作りこみや体の動きがリアルなだけに結構違和感があったのを覚えています。人間は、意識的にせよ無意識的にせよ常に顔の表情からとても多くの情報を得て人間関係を築いているので、その表情には大変敏感ですしね。3DCGで人物を作ることの難しさを感じました。技術的に少し早かったのかもしれません。「トイ・ストーリー」でも、1995年制作の 「1」 と続編の 「2」 (1999) では人物の作りが全然違ってますし。 「3」 (2010)では、堂々と人間をたっぷり出してますしね。技術の使い方と表現の方向性、ノウハウの蓄積の大切さがわかります。


また、世界最大のCGの祭典として、シーグラフ 【SIGGRAPH】 (Special Interest Group on Computer Graphics)があります。これは米国コンピュータ学会のCG分科会で、毎年1回国際会議・展示会を開催しています(第1回は1974年)。ここでは最先端のCG技術の発表があり、また、世界中の選りすぐられたCGアニメーション作品が上映されます。



ページのトップへ戻る


Copyright (C)Tingaramation All Rights Reserved.